大阪 スタジオ 防音室 Real One 短編 忍者ブログ

Real One

イザミカSSブログ。

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情報屋、愛を乞う。

たとえばどうだろう。

たとえば、君が俺を愛したとしよう――そんな困った顔しないでくれない? たとえばの話に過ぎないよ。
そしたら俺はどうするんだろうね。俺は人間が好きだし、愛しているから、君のことも愛している。唯一の愛じゃなければ誠実ではない? そんなお綺麗な愛なんてありゃしないよ。
見てご覧よ、デュラハンの首を愛する男、そんな彼のストーカー、そんな彼……つまり弟を盲目に愛する姉。
唯一の愛なんてね、あっても歪んでるんだよ。そういうもんだ。他によそ見が出来ないもんだから、自分が歪んでいることに気づくことすら出来ない。

……俺? 俺ももちろん歪んでる。人間にしか唯一の愛を与えられないからね!ははっ! ――そう、だからね。唯一の愛なんて綺麗じゃない。歪んでるし、その感情だけがぐつぐつと煮えて煮えて、どろどろなもんなんだよ。
だから愛は無数にあったっていいんだ。
恋人が好きだ、家族が好きだ、友達が好きだ、自分が好きだ。たくさんの愛をばらまくのが人間だよ。普通の、ね。君もそうだろう?……責めてるわけじゃないさ。それが人間ってものだからね。

でもそれで、その愛の一つを俺に与えたとしよう。うん、そうだなぁ。出来ることなら一等特別なのがいい。俺にしか与えないようなヤツだよ。え、ああ。だからたとえだよ、たとえ。そしたら俺はどうするんだろうね。
あはは、わかるわけないでしょ?
だよねーそりゃそうだ、どうするかなんて、他人にはそうそうわからないよね。
なんでそんな顔してるの。
きっと、笑う? 与えられた愛を嘲笑う? 俺が愛を嘲笑うんだね。
それが君の予想? 俺って君の中で、そーんなに嫌なヤツなんだぁ? ……泣きそうな顔してるよ。馬鹿だねぇ、俺はまだ答えを言っていないよ。何も言っちゃいない。それは全部君が考えた、予想だよ。

じゃあ俺はどうするかって?

…………。
……あのさぁ、ものすごく話したく無いんだ。
話さなくてすむものなら、そのままでいたい。
だけどきっと必要だから、言わなければいけない。ああ、嫌だな。
でもやっぱり、君には聞いて貰わないといけない。

人間観察が趣味だからね、俺という人間のことも、客観的に見えてしまうもんだ。
俺という人間はね、愛を感じたことがないんだよ。一般的な愛は知っている。まあ親の愛もそれなりに。だけどね、ひたむきな愛ってのがピンと来ない。一途、特別、愛。繋がらない。存在は理解しても、この手に感じたことはない。……わかりにくい? 何となくでいいや、わかってよ。うん、何となくでいい。でも君には知ってもらわないといけない。

だからさ、わからないんだよ。
わからないんだ。

愛を人間に与えられても。え、はは。それは愛じゃないって?
困ったな、俺は愛することも出来ないの? ふうん、そういうもの。そうだねぇ。
よくわかんないや。
だから困った顔しないでって。俺は愛してるつもりなんだよ。俺は人間を愛している、これを前提で話を進めようか。君は、不思議な位置にいるよ。大抵の人間を俺は愛する。俺の予想通りに動いて、つまらない考えをするような人間でも、人間は人間。愛しくて哀れだ。だからこそ人間ともいえるね。シズちゃんなんかは、予想通りにいかないし、理屈も通じない。単細胞、単純なくせに思い通りにいかないし、大嫌いだよ。まったく愛を感じない。あれを人間と認めたくはないよね。

おっと、話が逸れたね。
そう、君はまったく、特別な位置にいる!
君の行動は予想がつくときもあるし、つかない時もある。理屈が通じないわけじゃない、お人よしなくせに自分勝手な部分を持ち合わせ、非日常に憧れながら、日常に浸かる。ねぇ、考えてみればごくごく普通の、愛すべき人間。だけど君の言動の観察をしていると、何故か俺まで反応をしてしまうんだ。ねぇ、君が予想通りの行動をとったとしてもね、そうじゃなくてもね、普通なら「ああ、面白い」って思えるんだ。観察できるんだ。そこで俺は愛を感じる。人間とはかくも素晴らしい。俺の知らないことばかり、素晴らしい。
なのに君を見ていると面白いなんて思えないんだ。最初はそう、常識人でお人好しな君が、非日常に憧れるあまりとる数々の行動が面白くて仕方が無かった。だというのに、最近は駄目だ。君がシズちゃんに笑いかけるとしよう。彼は非日常の塊で、最強で、君は恐れると同時に憧れるだろう人物だ。怖くとも、君は笑って接するだろうということは容易に想像できたよ。それに、シズちゃんは素直な小動物は嫌いじゃない。君に無駄に暴力をふるわないということもわかる。だけどそれが、まったくもって面白くないんだ。面白くないどころか、苛々する。

君がシズちゃんに向けるのは愛? 無数の愛の一つなの。嫌いじゃない、その答えは愛に繋がるの。憧れ、尊敬。さて、愛はどこから生まれるんだろう。いつ憧れや尊敬が愛に転じるかわかったもんじゃない。そう考えると愛っていい加減なもんだと思わない? 愛なんていうと、大層なもんに聞こえるけどさぁ。人の価値観次第。愛って人間そのものかもしれないねぇ――ああ、なんだか小難しいね。俺はこういうこと考えるの、嫌いじゃないよ。君は? よくわからない。そう、残念だな。
うん、知ってるよ。愛しているわけじゃない。でもシズちゃんを嫌いじゃない。そうだろう?
そうだ、じゃあ運び屋は? あれも非日常だよねぇ、化け物だもん。ああ、好き、ね。とても都合の良い言葉だ。睨まないでよ。愛でもない、憎しみでもない。好きっていうのはそれほど強い感情じゃないってことかな。でも軽い愛、なんてものもあると思うんだよねぇ。ほら、重い愛があるんだから、軽い愛だってあって当然だろ。本当に愛なんていい加減なもんだ。

だけど、そんないい加減なものでさえ、俺は手に取ったことが無いんだよ。

正直に言おう。
それほど、欲しいと思ったことは無い。俺は、そうだね、一般的に言うと「痛い」「歪んだ」人間だ。自覚くらいしてるさ。人間観察が趣味なんだから。その時点で、そこらに溢れている愛なんて、向けられることはないと解っていたし、欲しいとも思わなかった。興味も無かった。すぐに捨てて、取り換えのきく愛。人間ってのはそんな不安定でいい加減なものに縋って生きているんだと大笑いしたもんだよ。愛があって信頼があるから裏切りがあって。でも裏切りがあるってことは、愛なんてすぐ捨てることができるってこと。そんなものに振り回されるのはまっぴらだよ、観察するのは楽しくてもね。
だけどね、ああ、くそ。
言いたくない、けど、もう限界なんだ。

ねぇ帝人くん。
竜ヶ峰帝人くん。俺の特別な人間。

無数の愛でいい。そうだな、同情って名のついた愛でもいいよ。なんだっていいよ。
それを俺にくれないか。すぐに君が捨ててしまうような軽いもんでもいいよ。
上っ面だけでもいいよ。何だっていい。悔しいけど、シズちゃんに向ける分をほんの少しだけ分けるっていうんでもいいよ。
でも君の愛が欲しい。
今までの俺の信念とか、プライドをかなぐり捨てて言うよ。

君の愛が欲しい。

そうだ、まだ答えを言っていなかったね。
もし君から一等特別な愛を、俺が与えられたら?

特別な愛でなくたって、俺はその愛にしがみつくよ。どんなものかわからないけど、俺はそれを手放さないように必死になるだろうね。きっと無様だろう。俺自身でその姿を嘲笑うだろう。所詮人間、哀れで愚かで面白い人間! ってね。
君じゃない人間からの愛だったら? さぁ、どうか知らない。でも縋りつきはしないかな。だって君は特別な位置にいるんだ。
観察しているだけじゃ、満足出来ないんだよ。
君に関わりたいんだ。
俺だってわからない。わからないよ。
君が人間だから、俺は君を愛するよ。愛してるよ。人間だから愛したんだと思った。
だけど、君が化け物でも俺は愛するんじゃないかって考えて、最近怖くなった。
だったらこの愛は一体どこから来ているんだ。
不安定でいい加減。そんなものに結局俺は振り回される。
馬鹿みたいだろう、いいざまだろう。そんなこと言われなくてもわかってるさ。
だからさ、そんな泣きそうな顔しないで、困った顔しないで。また訳のわからない感情に流されそうにな――――え?

あ、はははは、はは!
やだな、本当に? あは、は。あれぇ? 俺の予想では、ここで愛を失う予定だったんだけど。
神様なんて信じてないけどさ、あれだね、俺は案外、神様に好かれているのかもしれない。

……は? 俺?
泣いてないよ。こんなことで、泣きゃしないよ。なんで泣かなきゃいけないのさ。

強がりぐらい、言わせてよ。うるさいな、ティッシュなんていらないよ。
いくつだと思ってるの。君よりずっと年上だよ、俺は。鼻くらい自分でかむよ!
ああ、くそ。もう。それで、今度は笑うの?
ああ、もう。悔しいな、心底悔しいよ。畜生。そうだよ、どうせ泣いてるよ。

君が俺を見て笑っているだけで、どうしようもなく泣きたくなるんだ。






これが愛っていうやつかな。
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