大阪 スタジオ 防音室 Real One 短編 忍者ブログ

Real One

イザミカSSブログ。

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Who would trust him?

※女体注意。「I can't believe it!」の続きです。





夏がいまだ去りきらず、秋はまだ足踏み状態。風通しも悪く、もちろんクーラーもない帝人の部屋は、この時期になってもまだじめじめとした暑さが残っていた。熱をたくさん放出するパソコンをしょっちゅう起動しているものだから、そのせいもあるかもしれない。それでも真夏のような息苦しさは無くなったのでほっとしているところだった。流石に熱中症になるような暑さはもう無い。かといって、一日中長袖でいられるかといえばそれはちょっと暑いので、まだまだ半袖を仕舞いこむことは出来ないだろう。
朝夕は随分過ごしやすくなったけれど、日中はまだまだ暑い時期だ。
当然、涼しくなってきた夕方でも、いかに夏用といえど、ファーまでついたジャケットを着ていて暑くない訳がない。

「あっつ……」

人の部屋に入るなるうんざりとそう言い放った男に、帝人はふん、と鼻を鳴らした。暑いならこの部屋に来なければいいのに、という思いを込めてのふん、だ。しかし男――折原臨也にそんなものは通用しない。いつものように当たり前の顔をして部屋にずかずかと上がり込んだ臨也は、パソコンの前で畳に座りこんだ帝人の横に腰を下ろした。

「よくこんな暑い部屋で過ごせるね……とても現代人とは思えないよ」
「そんな暑苦しい格好した人に言われたくないです」
「夏用ジャケットだけど」
「……」

なんで夏用ジャケットにファーがいるんだろう。しかも臨也のジャケットは熱吸収の良い黒色だ。見た目からして、暑苦しいことこの上ない。帝人のじっとりとした視線に苦笑した臨也は、素直にジャケットを脱いだ。
しかし結局インナーは長袖の黒いシャツなのだから、やはり暑そうだ。そのくせさらりと涼しい顔をしているのだから憎たらしい。半袖のTシャツを着ているのに、帝人の首筋にはじっとりと汗が浮かんでいる。扇風機の風がその汗を冷やして、暑いのに帝人の肌だけはひんやりとしている。汗をかくのはあまり好きでない。曲がりなりにも女の子だ。汗臭いのはごめんである。
まったく湿っていない臨也の黒髪が扇風機の風にさらりと揺れるのが、ひどく爽やかに見える。きっと新陳代謝が悪いのだろう。きっとそうなのだろう。この人いかにも不健康な生活をしていそうだものな、と自分のことをすっかり棚上げして帝人は心の中でそう結論付けた。

「今日のご飯、なに?」
「……臨也さんのリクエスト通り、お鍋ですよ」
「マジで。やった」

たくさんの野菜を切って放りこみ、いつも食べている肉より少しお高めの肉も用意して、鍋はぐつぐつとコンロの上で美味しそうな音を立てている。まだ大根が芯まで煮えていなかったから、もう少し火にかけておかなければならないだろう。鍋用のガスコンロなんて気の利いたものはこの部屋に存在しないので、しっかり野菜と肉に火を通してから、卓袱台に運び、温かいうちに食べることになる。あまり鍋らしくない食べ方に、少しだけ臨也は不満そうだったが、それでも鍋は嬉しいらしい。この様子だと今度は鍋用のコンロを用意して部屋にやってきそうだ。

「おかげで室温が更に上がりましたけどね……」

パソコンがあるだけで狭い部屋は暑くなってしまう、その上鍋なんて作ろうものなら、さらに湿気もプラスされて不快指数もうなぎ昇りだ。この暑いのに鍋なんて、という嫌味を言葉の端々に忍ばせてみたけれど、やはり臨也には通用しない。夕飯が鍋だという帝人の言葉に素直に喜び、臨也はにこにこと笑顔を浮かべている。邪心の無さそうな笑みにうっかり見惚れそうになってしまって、帝人ははっとする。これだから顔のいい男はよろしくない。
帝人だって今は訳あって男装なんてしているが、心は正真正銘の女の子だ。特に面食いというわけでもないが、かっこいい異性にそれなりにドキドキしたりもするのだ。

しかしいくら顔がいいとはいえ、折原臨也はいけない。
帝人の本当の性別を知り、それをばらされたくないでしょ? と笑顔で脅して晩御飯を作らせるような男なのだ。晩御飯作ってとか、案外可愛い要求しかしてこないな、とかうっかり心を許してはいけない。しかし食費はきちんとくれるあたり、貧乏学生としては、やはりどうにも憎みきれないというか。
――いやいやいけない。情報屋なんて怪しい職業の男に絆されてはいけない。ふるふると頭をふると、汗で少しだけ湿った短い髪の毛が、帝人の額にひたりと張り付いた。暑い。

「やっぱりまだ、お鍋にはまだちょっと早いですよ」

ぐつぐつと煮え、湯気を立ち昇らせている鍋に目をやり、帝人はため息をついた。帝人も鍋は好きだが、やはりもう少し寒くなってから食べるのが美味しい料理だと思う。

「いつ食べたって、鍋は美味しいよ」

帝人の額に張り付いた髪の毛をはらりと優しくよけながら、臨也はやはりご機嫌だ。乾いた指先が額に触れてなぞられる感触が思いのほか心地良く、帝人の目がとろりと少しだけ潤んだ。

「暑いのは嫌いです……」
「帝人くんて、案外暑がりだったんだねぇ。そういえば真夏は死にそうな顔してたもんね」
「臨也さんの方が、暑さに弱そうに見えますけどね」
「俺だって暑いのは嫌いだよ」

臨也が言うとどうにも嘘くさい。だって今だってこの部屋に入って結構たつのに、汗一つかいていない。暑いとか本当に思ってるんだろうか。帝人は相変わらずじっとりと汗をかいていて、不快で仕方がないのに。

「けど帝人くん、さすがにもう半袖は寒くない?」
「お鍋作るために、ずっと火のそばにいたら暑くなったんで、上着を脱いだんですよ」

額をつつく指先を振り払うように、帝人は再度頭を振った。あっさり離れてしまった心地よい指先を少しだけ残念に思いつつ、帝人は唇を尖らせた。畳に放りだされた薄手のカーディガンを指差して、暑いのは鍋のせいなのだと抗議する。

「汗かいてそんな半袖でいたら、風邪ひくよ」

放りだされていたカーディガンを拾った臨也に、甲斐甲斐しくも服を着せられた。薄手とはいえ、汗をかいた腕にあまり気持ちのいい感触ではない。が、確かに風邪をひいても面倒なので、素直にカーディガンを着ておく。実のところ、肌を冷やす扇風機の風が、少し寒くなってきたところだったのだ。

「…………ん?」

カーディガンのボタンまでしっかりととめていた指をぴたりと止めて、臨也は首を傾げる。されるがままでぼんやりしていた帝人も一緒になって首を傾げた。なにやら眉間に皺を寄せて、唸っている。いつもへらりとした食えない笑みを浮かべている男なので、こうして真剣に悩ましい顔をしているのは珍しい。思わずまじまじと見てしまい、その整った顔に再びため息が出そうになった。だから顔に騙されてはいけない、と自分に言い聞かせる。
もしかして、カーディガンのボタンでもとれそうになっていたのだろうか? 臨也がじっと見つめている先に帝人も視線を向けるが、押し入れから出したばかりのカーディガンはボタンがとれかけているわけでも、糸がほつれているわけでもない。何をそんなに一心に見つめているのだろう。

「――ねぇ帝人くん、ブラのサイズ合ってなくない?」
「は?」

言うが早いがカーディガンの隙間から手が突っ込まれ、ブラのアンダーラインをなぞられた。先ほど額をなぞられた時はあんなにも心地良かったのに、脇をなぞる指にぞくぞくと背筋が震えた。そのまま背中まで回った手は、いとも簡単にブラのホックを外してみせた。あまりに手慣れた仕草に、ぽかんとするしかない。緩んだブラが腹のあたりに落ちる感触がした。

「アンダーがゆるすぎ……夏バテで痩せちゃった? あーでもカップは大きくなってる。サイズが合ってないから、そこはきつかったんじゃない?」

駄目だよちゃんとぴったりのブラをつけないと――としたり顔で説教をし始めた男に、ただただ呆然とする。両手でアンダーのあたりをがっしり掴まれても、帝人は抵抗も出来ずまだ呆然としていた。

「しかしいくらなんでも、ちょっと細すぎかな……帝人くんもうちゃんとご飯食べなきゃだめだよ。それにカップも大きくなったんだし、ぴったりのブラつけないと、将来形崩れるよ。ああそうだ、なんなら今度一緒に買いに行く?」

さらには前にするすると移動してきた手に、流石に帝人は我に返った。ちょうどうまい具合に近くにあった枕をひっつかむと、臨也の顔面にばふんと思い切り叩きつけた。

「誰が行きますか!!」
「ちょ、帝人く、ぶっ」

ばふばふ何度もたたきつけて、ひるんだところで玄関まで追いやった。玄関の僅かな段差に臨也がつまずき、尻もちをついたのをいいことにそのまま外に蹴り出した。
この変態! と叫んですぐさまドアに鍵をかける。臨也いわく「ちゃっちい」鍵なので、臨也がその気になればきっとすぐに開けられてしまうだろうが、気持ちの問題だ。ドアの前に座り込んで、臨也が部屋に入ってこられないようにする。

「ちょっと、帝人くん、何するの」
「最低です! 臨也さん!」

ドンドンと臨也がドアをたたくのを背中に感じながら、帝人はカーディガンの前を掻き合わせてうずくまった。こんな簡単にブラのホックをはずされて、直接ではないけれど、胸を触られそうに成るなんて。羞恥で頭の中が真っ赤になる。ホックを外す仕草も、身体に触れる手も、あまりに慣れすぎていて、それが嫌だった。
その上、アンダーのサイズを測られて? 一緒に下着を買いに行こうかと軽く言われて?
――なんだそれは。馬鹿にしているのか。
いくら男の恰好をしていても、部屋にいるときはきちんとブラジャーもしているし、帝人は心も体もちゃんと女の子だ。だからこそ臨也を異性として意識してしまう部分だってもちろんあって――だというのに、あの男は! あろうことか! ブラのサイズが合ってないとよくないんだ、だなんて説教を始めたのだ。帝人の母親か姉にでもなったつもりだろうか。ふざけるにもほどがある。
帝人が怒りに頭をかっかとさせている間にも、臨也はドアをどんどんと叩いている。

「ねぇ、こうやって締め出されてると俺、すごい恥ずかしいんだけど」
「……」
「ご近所迷惑じゃないのこれ」
「……」
「帝人くん、外、寒いんだけど」
「……」
「風邪ひいたら帝人くんが看病してよね」
「……自業自得です。ばか」

あまり反省した様子は見られないが、確かにご近所迷惑かもしれない――帝人の家のそばには交番があるので、巡回中のおまわりさんに、すわ何事かと来られても困る。この状況をどう説明しろというのだ。臨也がよく回る口でなんとでもしてしまうだろうが、後々帝人が恥ずかしい事態になることは間違いないだろう。おまわりさんに生温かい目で見られるのは嫌だ。
ドア越しに、小さなくしゃみが聞こえたのも良くない。帝人の部屋は暑くとも、外はそれなりに涼しいだろう。夜風がひんやりと身体を冷やすに違いない。これでは確かに風邪をひいてしまうかもしれない。そう思ってしまって、つい心配してしまった自分はいったいどれだけお人好しなのだろう。
音を立てずにドアから離れた帝人は、押し入れから手当たり次第長袖の服を引っ張り出した。ブラをしっかりつけなおし、押し入れから出した服を次々に着込む。そうしてから、ようやく玄関のドアの鍵を外して、再び臨也を部屋に迎えてやった。

「……帝人くん」
「なんですか」
「暑くない?」
「誰のせいですか」

押し入れから引っ張り出したものをとりあえず手当たり次第に着たものだから、厚手のカーディガンを二枚、さらにその上に半纏まで着込むことになった。冬になったら寒いこの部屋で大活躍するであろうと、実家から持ってきた愛用の半纏だ。こんな早い時期から着ることになるとは思わなかった。しかしその厚着のおかげで、体のラインはきっちり隠れたはずだ。

「……そのまま鍋食べると暑くない?」
「うるさいです」

しっかり大根が芯まで煮えた美味しそうな鍋を前に、帝人は再び汗をじっとりとかくはめになった。まったく何もかもこの男のせいである。暑さに頬を真っ赤にしながら、帝人は臨也をじろりとにらむが、その真っ赤な顔に臨也は笑うばかりだった。やはり部屋に入れるんじゃなった。それでも体が冷えたから尚美味しい、と鍋を嬉しそうに食べる臨也にうっかり心が和んでしまう。本当にどこまでどこまで自分はお人好しなのだろう。だからこんな男に付け込まれてしまうのだろう。
しかし懲りずに、「いつブラ買いに行く?」と口にした臨也の椀から肉を奪い取ることは忘れなかった。代わりに椀に大量の野菜を入れてやったら、子供みたいにふてくされた。
その顔を見て、ざまぁみろと思うと同時にうっかり可愛いだなんて思ってしまい、帝人はそんな自分に再び心底がっかりするのであった。





(将来の自分のために)サイズのあったブラを帝人につけて欲しい臨也さん。
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