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猫と子どもの類似性

「私は常々思うのだよ。日常における非日常なんていうものは、案外容易く手に入ると。日常生活におけるイレギュラーを非日常と定義づければ、すなわち行事関係は全て非日常! ハロウィンなんて典型的な見本だと言えよう! 仮装などという非日常的行動は通常を思えばイレギュラー以外の何物でもない!」
「……で?」
「常々変わった事やイレギュラーを好む君は、2月22日で猫の日という今日を決して見逃したりはしないだろう、そう私は思う。そこで親切な私は更に思った。日々息子とも仲良くしてくれている君に、ここは1つ親友の親として、君に何かしらプレゼントをしたい、と!」
「……で?」
「それがこれだ!!」

ガスマスクに白衣という奇妙奇天烈ないでたちをした男の手に、ぶらんとぶら下がっているのは猫耳と尻尾を生やした幼子。
黒い短髪と同じ黒い耳と尻尾をぴこぴこ揺らし、一言。

「いじゃやにゃー」

じたじたと手足をばたつかせ、男の手から逃れると、ひしっと臨也の足にしがみついていじゃやにゃー、いじゃやにゃーとご機嫌な様子で鳴くその子を見て、臨也は深い溜息を吐く。そしてじろりと男を睨みつけた。

「…………………影に包まれて消滅するのと自販機に潰されて死ぬのと標識に突き刺されて死ぬのとナイフで切り刻まれて死ぬの、どれがお好きですか?」
「死ぬ以外の選択肢はないのかね?!」
「むしろ生きようと考えてる事に俺は驚きますよ。あと別に俺は非日常が好きなんじゃなくて俺の好むものがそこにあるというだけです。更に言えば別に新羅とは親友なんじゃなくてただの腐れ縁ですから」
「私の親切を理解できんとは嘆かわしい!」
「嘆かわしいのはあなたの思考回路です。ていうか殺されたくなければ10秒以内に俺の視界から消えてください」
「乱暴な奴め……そんな事ではこんな幼児に悪影響を与えるぞ!」
「現時点で悪影響しか与えてない上子育てに確実に失敗してる人間には言われたくありませんよ。10秒経ちました。死ね」
「うぉぉおおぉ!?」

懐に常時携帯しているナイフを取り出して男めがけて投げつける。
間一髪の所でそれを避けた男は、臨也が本気で怒っているのをやっと悟ったらしく、いそいそと身支度を整えて「ではな!」という言葉を残して去って行った。
残ったのは壁に刺さったナイフと、臨也の足元でごろごろと甘える幼子。
臨也はもう一度溜息を落としがてら視線も下へ落とす。

「……困ったね」
「にゃー!」
「ああうん、困ってるのは俺だけだね、君はとても楽しそうだ。良かったね帝人君」
「にゃーん!」

満面の笑みを浮かべて返事をする帝人に、臨也は更にこぼれそうになった溜息をぐっと飲み込んだ。




今日は厄日だ。
やっと溜めこんだ仕事を終えて寝たのが明け方だというのに、朝っぱらからインターホンを連打され、渋々起きれば新羅の父である岸谷森厳がいて、居留守でも決め込もうかと思ったらぎゃいぎゃいと玄関先で叫ばれた。
仕方なく3分で帰る事を条件に家に入れてやれば、あまりの騒々しさに起きてきたらしい帝人を有無も言わさず抱き上げ、臨也が制止するよりも早く霧状の何かを噴霧した。霧吹きなんていう生易しいものではなく、ちょっとした煙幕レベルのそれは、小さな帝人の身体をあっさりと包み隠してしまう。
何をするんだと抗議しかけた臨也の耳に「にゃー?」と声がしたのと霧が晴れていくのはほぼ同時で、森厳は聞いてもいない事を滔々と語り、猫耳と尻尾を生やした帝人を自慢げに差し出した。
そして、今に至る訳だが。

「……帝人君、楽しい?」
「にゃーぅ!」
「ああ、そう」

まんまるいうさぎのクッションを抱える、というよりも抱えようとした弾みでごろんと転がるというのを繰り返しながら、リビング中をころころ移動している帝人。臨也はソファーに座りながらそれを呆れた眼差しで見つめていた。
ころんと帝人が転がる度、うさぎのぬいぐるみは帝人の腕から逃げていく。それを捕まえようと帝人はきらんと大きな目を輝かせ、がばっと飛びかかるのだけれど勢いが良すぎるのか何なのか、飛びかかった帝人ごとぬいぐるみはころころ転がってまた帝人の腕から逃げていく。
それをさっきから延々繰り返しているので、見ている臨也の方が飽きてしまった。
うさぎのぬいぐるみと格闘している姿を見ていて思った事は2つ。
1つは、確かに猫っぽい仕草にはなったという事。
帝人がじゃれているうさぎのぬいぐるみは、確かにここ最近帝人がお気に入りのやつだけれど、少なくとも今のように飛びかかったりはしていない。ぎゅむりと抱きしめて幸せそうに顔を埋めてむふむふと笑っている程度だ。
小さいとはいえ猫の狩猟本能のなせる技なのか、うさぎを獲物と捉えたらしい帝人は、さっきからずっとぬいぐるみに飛びかかってはころりと転がっていた。
もう1つは、そこ以外はいつもと全く変化がないという事。
ぬいぐるみ1つ捕まえられない鈍くささも、妙に諦めの悪い頑固さも、何が楽しいのかにこにこと笑う笑顔も、いつもの帝人と何ら変わりがない。強いて言うならば人間としての言葉があまり喋れなくなったという点は違うと言えば違うのだけれど、元々大して喋れていなかったので、臨也的には変化なしという判断である。

「猫と幼児は行動パターンが変わらないってことかな」
「ぅーな?」
「何でもないよ。ていうか帝人君、お腹減らない?」
「んにゃ」

タイムリーに帝人の腹がきゅるりと鳴る。
森厳の突然の来訪によって精神的に疲れていたせいですっかり忘れていたが、臨也も帝人もまだ朝ご飯を食べていない。何か適当でもいいから食べなければ。
そこまで考えて臨也はふと気付く。
今の帝人に与えてはいけない食材とかあるんじゃないのか?
普通、猫には刺激物は厳禁だ。カレーやチョコレートの類がそれである。その他ねぎ類、いかやエビ等食べさせてはいけないし、そもそも人間の味付けは猫には濃すぎるので、人間の食べ物を猫に与えるのは推奨されない。その中には猫の餌付けの代表格であろう煮干しや海苔も含まれている。まあ、朝ご飯でカレーやチョコレートはもちろん、煮干しをそのままとか海苔オンリーなんて事はさすがの臨也もしないけれども、与えてはいけない食材として念頭に置くべき事だろう。
臨也はじっと帝人を見る。帝人は早くご飯が食べたいのか、ぐいぐいと臨也のズボンを引っ張ってキッチンを指差し「にゃーにゃー」と鳴いてアピールしていた。
それを見て、臨也は決める。

「ま、猫って雑食だし、食べさせちゃいけないものにさえ気をつければ別に今までと同じでいいか」

猫耳と尻尾こそ生えているけれど、身体を構成している要素は人間と同じはずだ。
念のため食べさせてはいけない食材達を避け、いつもより少し薄味にでもしたらいいと思う。それで問題があったら新羅の所に連れて行って帝人を任せた後、森厳の息の根を止めればいいだけだ。

「さて、じゃあ朝ご飯にしようか、帝人君」
「うーにゃん!」

ぴんと耳と尻尾を立て、ご機嫌の返事を返す帝人に、臨也は無意識ながらも表情を緩める。
くしゃくしゃと頭を撫でながら耳を突いてみると、ぴるぴると動くのが面白くて何度も突く。すると帝人が我慢できなくなったのか「にゃんにゃー!」と鳴いて尻尾をぶんぶん振りながら抗議した。嫌だったらしい。

「はいはい、ごめんごめん。お詫びに帝人君の好きなフレンチトーストにしてあげるから」
「にゃー! いじゃやにゃー、にゃーぅ!」

多分人間であったならば拙いながらも「わーい! いじゃやしゃ、しゅきー!」とでも言っていたであろう。生憎と半分猫化してしまった帝人はにゃごにゃごとしか鳴けないのだけれど、何となく臨也は帝人の言いたい事を感じとる。
帝人が臨也に懐き、慣れているのと同じように、臨也もまた随分と帝人に慣れてしまったらしい。
くつりと臨也は笑みを漏らし、帝人の好物を作るべく小さな手を握ってキッチンに入って行った。















「……ていうかこれ、いつ元に戻るんだ?」
「んーにゃ?」




元に戻ったのは1週間後、耳と尻尾をなくして一番しょんぼりしたのは帝人本人であったとかなかったとか。
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