大阪 スタジオ 防音室 Real One 短編 忍者ブログ

Real One

イザミカSSブログ。

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これは真綿で包んだ狂愛


そんなつもりはなかった、と言えば彼は信じるだろうか。たまたま新宿辺りをぶらついて軽く迷子になっていた彼を見つけ、家が近いからと部屋に招き入れ、なんとなく目に入ったベッドに押し倒したらソノ気になっただけなんだよ、と言って彼は信じるだろうか。
いや、信じたりしないだろう。最近彼は妙な知恵をつけてきた。正確には他者の言葉を少しずつ自らの中にとりこむようになってきた。あんなに素直だったのに、この薄汚れた雑踏に彼の心は染まってしまったという証拠なのだろうか。なんて嘆かわしい。なんて愛しい。
驚いた顔でこちらを見つめる目はまん丸い。
そんな顔をしていたら、いつも以上に童顔に見えるよ、なんて言わないのはちょっとした親切。言わなくてもいいことだ。自分さえ知っていればいいことだ。たとえ彼であっても知らなくてもいい。その顔は、自分だけのものだ。
これから彼が浮かべるであろう表情も、声も、言葉も、全て。




俺はね、人間が好きなんだ。
……ああ、そうだね何回も言ってるからもう耳タコだよね、あははは!
でも聞いてよ。何度だって言うから、何度だって聞いてくれる?
嫌だって言ってもその耳に垂れ流すから。

話を戻すけど、俺は人間が好きなんだよ。
平凡が一番なのにわざわざ非日常に足を突っ込みたがる所とか。
疑心暗鬼に囚われて、それでも誰かを愛して、その愛した人間を助けれずに勝手な自己嫌悪に陥って、向かわないといけないって思いながら目を背ける小狡い所とか。
大切な人のために自ら封じ込めていた刃を手にして戦おうとする偽善的な所とか。
本当、人間って愛すべき馬鹿だよね!

うん、わかってるよ、俺だって人間だ。
愛すべき馬鹿の1人さ。
もちろん君もね? ……やだな、そんな睨まないでよ。




ゾクリとする。
睨むその眼差しの、なんて甘いこと。舌舐めずりをしてぺろりと丸飲みしてしまいたい。きっとすぐにとろとろと腹の中で消化されるだろう。それを思うと臓腑が燃えあがるような歓喜を覚える。
けれどそんなもったいないこと、誰がするものか。溶けて消えるなどさせはしない。目の前から消えてなくなるなんて許さない。自分と同化するというのは確かに魅力的といえば魅力的かもしれないが「目に見えない」ものは愛せないのだから仕方ない。
溶けてしまえば「本当に自分と同化したのか」という疑念が鎌首をもたげるだろう。
なにせ自分はだれよりも人を愛し、誰よりも己を疑う人種なもので。





本当に人間って馬鹿で愛しいよ。
アレコレと理屈をこねなきゃ何もできない。でもいざとなったらこねたはずの理屈を無視して突っ走るんだからさ。じゃあ理屈をこねた時間は何だったんだよ、っていうね。
十人十色、とはよく言ったものさ。
1人だって同じ人間はいない。たとえ血のつながった双子だって「完全なる一」にはなれない。
なろうとしたって無理だね。だって一から別れたのが双子なんだから。
別れたものは戻らないんだよ。
なのに一になりたがってもがく。そんな所もほんとう、可愛いよねぇ?
………うん? ああ、そうだね。俺の話理屈っぽいかな。ははは!
でもね、これは俺にとってとても大事な事なんだよ?
なんでかわかる?
わかんないよね、だって君、好きな女の子が悩んでるのさえ気付かなかったもんね? あははははは!
ほんと、君は馬鹿な子だよね。
だからどの人間よりも君が愛しいんだよ、俺は。
馬鹿で愚かで鈍感で……うん、本当、可愛いね、君は。




苛立ちの気配が濃くなる。ああ、本当に可愛い。愛しい。
少し弱い部分をつついただけでこうなるなんて。あの頃の君は本当に可愛かったよ。当事者の1人のくせして全然気付かないでいて、うすらぼんやりと他人の心配をしている君は、腹が立つほど可愛かったよ。他人の心配なんてしないで自分の心配をしてりゃよかったのに。
そうしたらこんな目にも合わなかったかもしれないのに。
ああ、違う。それはない。いずれ君は「こう」なっていたから。
組み敷かれ、頬を撫でられ、首筋を舐められ、粟立った肌に唇を寄せられ、バクバクと早鐘のように鼓動を打つ羽目になっていたんだから。




話を戻そうか。
どうして俺が理屈っぽいかわかる?
そうだね、わかんないよね。ああ、だからそんな拗ねないでよ、別に君を馬鹿にしてる訳じゃないんだ。馬鹿だとは思ってても、馬鹿にしたい訳じゃないんだからさ。
それより答えてみてよ。考えてみてよ。





そうだよ考えてごらん。
服を乱されて抵抗さえも銀色の刃に阻まれてできず恐怖に身体を震わせていたとしても、頭だけは出来る限り動かしてごらん。考えてごらん。
俺のことだけをずっと考えて。
俺に触れられて、貫かれて、喘がされて、どろどろに身体も思考も溶かされてまっ白になる瞬間まで、俺のことを考えて。
いやだ、やめてという君の声が部屋に響くのを聞きながら君のことだけを考えている俺と同じ位、俺のことを考えて。
だって卑怯だ。ずるい。俺ばかりがこうなるのはフェアじゃない。俺と同じ所に堕ちてきてくれないとつまらない。
別に「一」になりたい訳じゃない。そんなものただの自己満足でしかない。「一」になれないものを求めるほど馬鹿じゃないし、君と「一」になるなんてゴメンだよ。
俺がなりたいのはそんなんじゃない。君「と」一になりたいんじゃない。君「の」一になりたい。それがたとえ憎悪という意味であっても、君の心の内の大部分と根っこの部分を支配できるならそれでいい。それがいい。
ねえ、だからさ。




考えて。答えて。
俺がどうして理屈っぽいのか。
わかったら教えてよ。
採点してあげる。
正解だったらご褒美をあげるよ。
……え? 間違ってたら?
そりゃあ、もちろん


お仕置きだよ?




誰よりも愛してあげるから、誰よりも憎んで。

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