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イザミカSSブログ。

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認めるわけには、

臨也は人間が好きだ。

難解、複雑。飽きさせない。
個人差は確かにあれど人の行動はある種のパターンに従っている。他の生物に比べ、無駄に知識をつけたホモ・サピエンスはとかく無駄な行動をとりたがる。自己の安寧、プライド、欲望、様々な理由で振り回される。

それがたまらなく面白い。

ときに型にはまらない――臨也の予想していない行動をとる人間を見つけた時(といってもそんな人間そうはいない。大抵の人間は臨也の予想通りに動くものだから)、楽しくて仕方がない。そのレアな人間を観察し、臨也は好奇心を満たすだろう。試すようにちょっかいを出し、人間がどう反応するか見る。条件を与え、経過を観察し、結果を見る。それはちょうど実験のようだ。 客観的に出来事を見て、分析して。そこには理性に覆われた冷静な目が存在するだけだ。そのはずだった。

だというのに、この不可解なものは何なのだろう。

それを感情だと認めるのは、素直に出来そうに無い。
確かに、型にはまらない人間なのかもしれない。彼は、臨也を楽しませる。ほかの人間には無い、高揚を覚える。なぜ。なぜ。どうして――どうして己の感情を認めたくないのか。
それも臨也にはわかっていた。臨也ともあろうものが、人間のパターンに従った行動を取ろうとしているからだ。そこらの人間がほいほいとはまり込むようなよくある型だ。だがそれは予想以上に心地が良い――くそ、だからそれを俺は認めたくないんだよ。

――臨也さん。

そこにどんな感情が篭ろうとも、それこそ無感動に呼ばれても、名前を呼ばれれば血がざわざわとする。そうして名前を呼ばれたことを思い出しただけで、ありえないことに、頬すら熱くなる。
なぜ。どうして。認めるのは悔しい。腹が立つ。だってバカみたいに簡単な人間の行動パターンじゃないか。自分だったらもっと、そう、こんな安っぽくてわかりやすい恋愛なんて。そんな本能にまみれたもの。
理屈で理性でねじ伏せてきたものが意味を成さない。それが悔しい。押さえ込めない。そんな馬鹿な。

「あれ、臨也さん?」

想像では無く現実の声じゃ、ずっと心臓に悪かった。その声に臨也は僅かに身じろぐ。抑えろ。ねじ伏せろ。平静であれ。些か緊張しながらも、ぽてぽてとやる気の無い足取りが近寄るのを感じる。とっさに笑みを貼り付けた。嘲笑とも見えるひらりとした笑いだ。演技は苦手じゃない。心で微塵も思っていなくても優しい言葉をつむげるし、優しい笑顔だって浮かべられる。しかしこんな風に表情が作りにくいだなんて、かつては一度も無かったことだ。

「池袋に、何が御用でもあったんですか。静雄さんに見つかる前にこっそり帰ったほうが良いと思いますけど」

だめだ。他の男の名前なんて呼ばないで。貼り付けた笑みすら、剥がれてしまう。理性でねじ伏せていたものが、元ある形に戻ろうとしてしまう。ぎりりと小さく歯を食いしばった。珍しく黙ったままでいる臨也を不思議に思ったのか、帝人が首を傾げた気配がした。

「……臨也さん、大丈夫ですか?」

どこか調子でも……。続けられた言葉に、本当に心配そうな情が滲んでいた。
だめだ。だめだ。
きっともう、とっくに――限界、だ。



「……帝人くん、俺さぁ、やっぱ人間って好きだなぁ」
 




そして俺もやっぱり、人間だったんだね。

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