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ねぇ、恋人さん

情報屋っていうのは相当儲かる仕事らしい。
そりゃ情報ひとつあたりいくら、なんて相場は無いものだし、情報を喉から手が出るほど欲しがる人の足元を見れば値段なんていくらでも吊り上げられるものだ。情報がものをいう時代であるし、人を脅せる道具にもなるし、物知りな情報屋さんはある意味最強だったりするのかもしれない。
――でも、人のプライバシーを切り売りしてるってことだよね。
もちろんそれだけではないだろう。だが、個人情報も取扱商品の一つなのだから、つまりはそういうことなのだ。だけどそれってあんまり褒められたことではないし、プライバシーを売られた人間はたまらない。もちろん、情報屋はそれなりに苦労して集めた情報なのだろうけれど。それに、もし売る気がなくても自分の様々な情報はこの情報屋に知られているのだろうなぁ、と思うだけでなんとなくよろしくない。
よろしくないどころか、こうして実害を伴っているのだから、最低である。

「おまわりさーん……」
「あははは」

いやいや、あはははじゃないでしょう、と心の中で突っ込みつつ帝人は若干の現実逃避を試みていた。情報屋って仕事はそりゃ確かに便利だし儲かるだろうし、なんかちょっとかっこよく感じちゃったりもするんだけど、やってることってプライバシーの侵害だよね。さらに不法侵入で倍率ドンでほぼ百パーセントこの人犯罪者だろ。いまさらの話ではあるんだけど。
家に帰ってきたら、帝人のベッドに悠々と座っている折原臨也に笑顔でおかえりと迎えられた。今まで自宅の前で待ち伏せされたことは多々あれど、これは無かった。さすがに無かった。
だって寒かったんだもん。悪びれず言われて怒りより恐怖より、脱力しててしまった。ていうか鍵はどうしたんだ。愚問だろうから聞かないけど。いつの間に合鍵作ったんだろう。

「ところでこの部屋大丈夫? 合鍵使うまでも無かったんだけど」

帝人の考えを見透かしたかのように言われ、帝人は苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。やっぱり合鍵作ってたんだな。

「針金一つで簡単に開けられる鍵ってどうなの。不用心すぎるよ。今度ちゃんとした鍵つけようか」

まさに犯罪。
大体、不用心もなにも、ピッキングしてまでこのボロアパートに盗みに入るような泥棒なんかいるわけもないし、それに、ストーカーに合っているわけでも無い、……多分。うん、多分。
ちゃんとした鍵をつけ替えるときは臨也に内緒にしようと帝人は心に誓った。大した時間稼ぎにもならないだろうが。

「無駄なことはやめた方がいいと思うよ?」

それと、全部顔に出てるから、帝人くん。
語尾に星でもハートでもつきそうな勢いで言われて、とうとう帝人はため息を吐き出した。無駄にさわやかな笑顔に力が抜ける。無駄だと言われてもそうそう無抵抗なままではいられないと思う。今度静雄さんに用心棒でも頼んでみようか――いや、それだと部屋が半壊どころか、アパートが全壊する可能性が高い。

「帝人くんー? また無駄なこと考えてる」

そうこうしている間にベッドから立ち上がった臨也に、コートを脱がされ鞄をとられた。ついでに臨也はコートをきちんとハンガーにかけてくれた。あれ、なんだろうこれ。新妻っぽい。

「無駄じゃないです、防衛のための秘策を練ってるんです」
「じゃあ無意味と言い換えようか?」
「……」

そのまま手をとられ、引かれるままに部屋に入る。狭い部屋だから大して歩き回る距離もない。再びベッドに腰掛けた臨也が帝人の手を引く。確かに狭い部屋だから、そこ以外に座るところなんてほとんど無いっていうか、床に座るしかないわけだけど。

「おいで、帝人くん」
「えー」

ベッドでヘイカモンはちょっと遠慮したいわけで。

「えーってなんですかー! ひどいですー!」
「うわぁ……」

チャットでの甘楽口調で喋られて一瞬本気で引いた。
チャット中に文字で読む分にはいいが、こうして聞くと、その破壊力に驚く。破壊力っていうか、うん。ちょっとした恐怖を感じますよね。

「いいからいいから」

何がいいもんか。そう思ったけれど、結局帝人はまぁいいか、と臨也の手に導かれるままにベッドに転がった。
無抵抗でベッドに転がり、臨也に圧し掛かられても何も言わない帝人に少々面食らったらしい。臨也は小さく首を傾げて、その後少しだけ眉を寄せた。抵抗して欲しかったのだろうか、そう思ったが、どうも違うらしい。

「無防備だなぁ」
「そういうわけでもないんですけどね……」

無防備というよりは、抵抗しても意味がないことを知っているからだ。
ついでに、抵抗する理由もないから。
それに、押しの強い人ではあるが、今までに臨也がそういう意味で帝人に触れようとしたことなど片手で数えるほども無い。軽いスキンシップはしょっちゅうだが、その手のことをきっと自分に求めてはいないのだろうと帝人は思っている。
帝人の顔をじっと見ていた臨也だったが、その頬をぐにっとつまんで苦笑した。

「何か勘違いしてるみたいだけど……まあ、いいか」

いつか思い知ることになるよ。何やら不穏な言葉を落とされる。
よく分からないから、臨也がやったように小さく首を傾げてみたけれど、臨也はまた苦笑しただけだった。

「とりあえず」

そして今度は何やらポケットをごそごそと探り始める。気になって上半身を起き上がらせようと思ったのに臨也に軽く押しとどめられる。
なんだなんだ何が始まるんだろう。目当てのモノを見つけたらしい臨也は、今度はそれを――何やら可愛らしい箱の包装紙をビリビリと破っていた。ああ、そういえば、それと良く似たものを今日園原さんに貰ったなぁ、とちょっとだけ帝人は心をぽかぽかとさせたのだけど、目敏く気付いたらしい臨也に軽く睨まれた。

「……帝人くん」

箱から一つをつまみだし、それをずい、と帝人の目の前につきつける。
臨也の予想通りやっぱりそれはさっき杏里から貰ったものと同じものだった。

「あーん」

臨也はにっこりと笑う。

「して?」
「……」

――嫌です。
そう、言えたら良かったのだが流石に口から出てこなかった。
はいあーん、だなんて何がしたいんだろうな、この人。
きっと臨也の考えていることなど帝人には一生わかりようもないのだろうが。笑顔のまま迫ってくる臨也に、ひいい、と心の中で悲鳴をあげた。さっきまでご機嫌だったのに、一体何が彼の機嫌を損ねたのだろう。
慌てて顔をそむけて、ぐるぐると思考を練るけれども、思い当るところが無い。シーツに頬を押し付けて、さすがにこれは抵抗すべきか――そう考えた矢先に頬に臨也の唇が触れた。

「こら」

思わず、うう、と唸ってしまった。
軽い接触はしょっちゅうされるが、健全に健全に生きてきた帝人にとって、なかなか慣れるものではない。なんとかやり過ごそうとぎゅう、と目をつむった帝人に、くすりと臨也は笑ったようだった。

「はい」
「ん、」

むぎゅりとトリュフチョコレートを唇に押しつけられて、仕方が無く帝人は口を開けた。カカオの香りと甘い味に舌先が痺れた。軽く上あごに力を入れると、ふにょんと柔らかなチョコレートが溶けて、洋酒の香りがした。とろとろと甘みが広がる。

「美味しい?」
「……おいひいれす」

存外大きな塊を口の中に押し込まれたものだから、上手く喋れない。なんとか頬にチョコレートを追いやって口を動かすけれども、呂律があやしくなってしまった。もごもごしている帝人を見て、臨也がにっこりと笑う。今度こそご機嫌になったようだ。

「そう、良かった」

そう言って、チョコレートが少しついた指に唇を寄せる。
ちゅう、と僅かに湿った音がして、帝人は頬を熱くした。絶対、絶対わざとだろうな、これ。見せつけるような仕草に、いちいち反応してしまう免疫のない自分が嫌だ。多分そんな帝人を見て、面白いなぁとか思っているに違いない。ホント趣味の悪い人だ。
振り回されるのは大変だけど、嫌いじゃない。度が過ぎればうんざりもしてくるけど、臨也に構われるのは、実は嫌いじゃない。けれど、こういう時は心底悔しいと思う。たまには、振り回してみたいと思ったりする。
――くそう、悔しいなぁ。

「……臨也さん」

ようやく飲み込んだチョコレートに、呂律も回復。名前を呼んで、まだしつこく唇に寄せていたその手をとる。少しだけ不思議な顔をさせて、しかし臨也の腕は素直に帝人の力に従った。そのまま、存外しっかりとした手を掴む。ナイフを器用に扱う指は、案外ぎすぎすしていた。
その人差し指に狙いを定める。

「…………」

臨也の目が驚きに見開かれるのを見て、帝人は心の中でにやりとした。口に含んだ指も微動だにしない。それほど、驚いているということだろう。
もごり、口を動かすと、臨也の爪に舌が触れた。僅かに甘いチョコレートの味がする。爪のふちをそるように舌を動かすと、臨也の指が少しだけ震える。

「……美味しい?」

目を見開いたまま、ようやく硬直から解放されたらしい臨也がそう聞いてきたので、また「おいひいれす」と答える。正直チョコレートの味なんてもうほとんどしないけれど、臨也のそんな表情が見れたのだから大満足だ。ぎゅう、と臨也の腕を逃がさないように握りしめ、その指に軽く咬みついてやった。
ぱちぱちと瞬きをして、臨也は、破顔した。

「……馬鹿だなぁ。帝人くんは」

ふは、と空気が抜けたような笑みだ。
無駄な力の入ってない笑みは、予想以上に帝人の胸を熱くさせた。臨也の頬も少しだけ赤らんでいたけれど、きっと帝人の頬はそれ以上だ。
思わず歯を立てたら、痛いよと笑われた。

「えい」
「ぅえっ!」

そのまま指をぐいと喉まで突っ込まれて、思わずえづいた。
ぐりぐりぐり。容赦なく舌を弄られて、しまった早まったかと後悔した。

「あははは、可愛い」

帝人の目から涙がぽろぽろとこぼれ始めた頃、ようやく口から出された指が、今度は臨也の口に咥えられた。濡れた指が、妙にいやらしい。自分のやったことながら、なかなか視覚によろしくない光景だ。

「うーん、可哀想に」
「へ?」

舐めて満足したのか、指は再び帝人の口元にあてられた。
そのままつつぅ、と唇がなぞられた。濡れた指の感触に、首の後ろがぞわぞわした。

しまった。しまった、本当に早まったかもしれない。

「こんな早々に、思い知ることになるなんてねぇ」
「……臨也さん?」
「仕方が無いよね。いつか通る道だから」

おそるおそる名前を呼んでも、臨也はにこにこと笑って、帝人の頬にキスをくれるだけだ。優しい接触なのに、やっぱり首から背中にかけてぞくぞくと寒気が走る。
何を思い知るって? きっと訳のわからない顔をしているだろうに、こういう時に限って臨也は答えてくれない。ただ楽しそうに笑っているだけだ。

「You are my Valentine.」

やけに流暢な英語で耳元に囁かれ、そのまま近づいてくる端正な顔に――、帝人は無抵抗で、そっと瞼を降ろした。やっぱり、抵抗する理由など無かったものだから。




Be Happy my Valentine.
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