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イザミカSSブログ。

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I can't trust you

※女体注意。





竜ヶ峰帝人は常に「非日常」を求めた。小さい頃から何かしらいつもと違うことがあるとワクワクした。それがたとえ恐怖体験と直結するようなものだとしても、日常と違うというだけで恐怖と同じかそれ以上の高揚を感じていた。
地方に住む人と比べれば十分に都会かもしれないけれど、帝人にしてみれば田舎でしかない、単調な毎日しか存在しない地元を離れ、テレビによく映る華やかな都会にあこがれたのもまた、非日常を求めた結果だと思う。周りの同級生がよく口にする「東京とかのがオシャレし甲斐がある」とか「可愛いものとか手に入りやすい」とかそういう理由ではなく、帝人は単純に目新しくてドキドキする生活がしたかった。
だから親に無理を言って池袋という都会に1人でやってきて、ぼろいアパートとは言え1人で暮らしている。
渋った親ととある「賭け」をしながら―――――。







「おーい帝人ー」
「……なんだ、正臣か」
「なんだとはご挨拶だなぁ! 折角今日はお前にナンパのついでに池袋を案内してやろうと思ったのに」
「やるだけ無駄なことのついでに案内とかどうなの、それ」
「お前の毒舌もどうなの……」

新学期が始まってすぐだと学校の終わるのも比較的早い。校門付近で待ち構えている部活の勧誘を何とかくぐりぬけ、一部正臣が美人の先輩につられて入部しようとしてるのをやんわり阻止しつつ、2人は池袋の街にやってきた。
始めのうちは「あそこの店は美人が多い」「あの店の店員はかなりレベルが高い」「可愛い子をナンパするならあの場所」と、全くもって参考にならない案内しかしなかった正臣だが、それら全てを冷ややかにスルーし続けた結果、やっとまともに案内してくれる気になったらしい。学校帰りに買い食いするのにちょうどいいクレープ屋やらなんやらを含め、あちこちを案内してくれた。ただし、サンシャイン60だけはかたくなに拒否された。曰く「お前が可愛い女の子になれば一緒に行く」そうだ。じゃあ無理だ。

買ったクレープ……正確には「案内料をよこせ!」ということで正臣の分まで買わされたクレープを食べ、「池袋にいるなら絶対に関わってはいけない人間」の名前を聞きながらぶらぶら歩く。すると、色んな人が正臣に声をかけてきた。
見上げるほどに大きい寿司屋の店員や、一見すごく普通の人なのに口を開いたら何を言ってるのか一部理解不能だった2人と、その2人の会話を打ち切ってくれたちょっとぶっきらぼうで怖そうだけど、喋ってみるととても優しそうな人。
人種も外見も何もかもが正臣と重なっていないのにどうやって知り合ったんだろう、と思う。でもよく考えれば、かなり地味な自分と髪の毛を染めたりピアスをしている正臣が一緒にいるのもチグハグな関係に見えるだろう。それと同じだと思えばいいのかもしれない。……いや、なんか違うような? でもまあいい。そういう面白いものがあってもおかしくない街だ、ここは。

「他、どっか行きたいとことかあるか? 店とかさ」
「あー……うーん、スーパーとかどこが安いんだろ?」
「そんなの俺が知る訳ないだろ……。……よし、俺に任せろ!!」
「え? 知らないんでしょ?」
「これから主婦のオネーサンをナンパして聞いてきてやる! 帝人は大船に乗ったつもりで待ってろよ!」
「泥舟の間違いだと思う」
「そこの綺麗なオネーサンちょっといいですかー!」
「聞いてよ僕の話。ていうかもう泥舟の泥がはがれて底から水が盛大に入ってきちゃってると思うよ。沈没する前にやめた方がい………いけどもう聞いてないよね、だよね」

残り少なくなってきたクレープにかぶりつきながら溜息をこぼす。既に正臣の姿は人ごみにまぎれて見えない。見えないが結果は見えている。ナンパは失敗し、ついでに帝人の存在を忘れて彼は帰宅するだろう。似たようなことは地元で何度も経験しているから間違いない。
もう1つ溜息をこぼして最後の一口を食べ、包み紙を適当に小さく折りながらさてどうしようか、と思案していたその時。

「ねえ」
「……ええと、僕、ですか?」
「そうそう、君。ねえ、今紀田正臣君と一緒にいた子だよね?」
「……正臣と知り合いなんですか?」
「うん、まあちょっとね」

ファーのついた黒いコート姿の青年に声をかけられ、帝人はドキドキしながらも会話を続ける。愛想のいい笑顔。多分10人に聞けば10人が「美形」と言うであろう容姿。果ては耳に心地のいい声。完璧だ。完璧なのだが、なんとなく背筋がぞっとするような、ゾクゾクするような感覚に襲われるのは何故だろう? 
知らずに身体が動き、目の前にいる青年から距離を取ろうと後退する。すると青年は困ったように笑って肩を竦めた。

「あんまり警戒されると悲しいんだけどな。ただ、紀田君に声をかけようと思ったのにどっかに行っちゃうから、君は行き先を知ってるかと思って聞いただけなんだ」
「あ、あの、正臣は多分戻ってこないと思います」

できもしないナンパに行ったので、と言わないのは幼馴染としての優しさである。それをわかっているのかいないのか、青年はそっかー、と軽く頷く。

「じゃあまた今度でいいか。ああ、俺は折原臨也って言うんだ。よろしくね」

名前を聞いた瞬間背筋がピンと伸びた。
ついさっき正臣から「関わってはいけない人間」として名前を挙げられた1人だったからだ。まさか、聞いた直後に出会うことになるなんて。というか見た目的にはものすごく普通にかっこいい人なのに、何で関わっちゃいけないんだろう。そもそも関わっちゃいけないのに、明らかにこの青年と正臣は知り合いみたいなのは何故なんだ。

「君の名前は?」
「えっ、あ、あの、僕は………竜ヶ峰帝人、です」
「ふぅん、エアコンみたいな名前だね」
「……はあ」

そんな感想を言われたのは初めてなのだが、関わっちゃいけない人にヘタに突っ込む気にはなれない。そうじゃなくても初対面の人に失礼なことを言えない。いや待てこの場合失礼なことを言われたのはこっちじゃないのか? そうだとしても何も言えないのだけど。
名乗った後で名前は言わない方が良かったかもしれない、と思った。でも聞かれておいて何も答えないのは失礼だと思うし、偽名を即座に言えるほど器用な性格もしていない。だから少しだけ悩んでから正直に名前を言った。

「帝人君はさ、インターネットってしてる?」
「は?」
「最近の子だからネット位余裕でやってると思ったんだけど。違った? 正臣君もネットとかよくやってるしチャットもしてるし、君もしてるんじゃないの?」
「は、はぁ……一応、してますけど……」
「そっか。俺もネットしてるんだ。色んな情報が溢れてて楽しいよねえ、ネット。まあ現実世界よりも面白いことは何もないけど。じゃあどっかのチャットで会ってるかもしれないね、俺と君」
「はあ」
「さすがにここでメルアドとか聞いたらまずいだろうから、それはまた今度にしとくよ。じゃあね帝人君」
「はあ」

もう「はあ」以外に出てくる言葉はない。何なんだこの人。色んな意味で関わりたくない。訳がわからなさすぎる。正臣の言語明瞭意味不明瞭な言葉と同じような感じがするけど、ベクトルが全然違う。本気で理解できない。
ぽかんとする帝人を置き去りに、折原臨也と名乗った正臣曰く「危険人物」はひらひらと手を振って雑踏の中に消えていく。あんなに目立つ容姿をしているのに、不思議と人ごみに溶けて行った。
我に返った時には妙な疲労感があった。本当ならもうちょっと池袋を散策してから帰ろうと思っていたのに、そんな気もうせた。冷蔵庫が空っぽだからスーパーで買いだしをしたらさっさと帰ろう、そう帝人は思った。



***




「……買いすぎた……」

ずしりと手に食い込むエコバッグ2つ分の重みに帝人は唸る。
安いとネットで見たスーパーに行く道中に少しだけ迷ってしまった結果、タイムサービス時間に到着できたのは幸いといえば幸いだが、血走った眼の主婦陣に気圧され、もみくちゃにされた。卵1パックと牛乳2パックその他諸々をゲットできた自分を誉めてやりたい。ついでにペットボトルの水も2リットル買ったせいで、かなりの重量である。
あのスーパーが安いのはわかったので、できれば今度行くとしたら自転車が欲しい。池袋にいれば電車やバスがかなり発達しているので徒歩でもいいか、と思っていたのだけれど、自転車は買ってもいいかもしれない。
そんなことを思いながら夕暮れの中を帝人は歩く。もう目の前にぼろアパートという名の自分の城があった。
しかし、その道中を遮るように1つの人影。

「やあ」

夕陽を背に受けているせいで誰なのかわからなかったけれど、声を聞いた瞬間に帝人はそれが誰かを察する。
池袋の街中で別れたはずの折原臨也、その人だ。

「折原さん……?」
「臨也でいいよ」
「はあ……じゃあ、臨也さん、どうしてこんな所に?」

アパートの住人の誰かに用があったのだろうか。首を傾げると臨也は楽しそうに笑った。それはもう楽しそうに。ぞっとするほど楽しそうに。
エコバッグを持つ手にじわりと汗が滲んだ。
どうして、この人がここにいるんだろう。

「君に会いたくてさ」
「……は?」
「ねえ、さっきネットしてるって言ったよね? じゃあさ、知ってる? 結構前から有名だからちょっとネットしてれば知ってると思うんだけど。『ダラーズ』っていうの」

話が飛び過ぎている。本当に訳がからない。
訳がわからなくて気持ち悪い。いや、違う、そうじゃない。この気持ち悪さはそんな理由のせいじゃない。
随分前に食べたクレープの生クリームが喉に張り付いているような、まとわりつく感覚を唾液で押し流した。

「名前なら聞いたことあります。それがどうかしたんですか?」
「うん、最近そのダラーズに興味があってさ、俺。それでちょっと色々調べてる所なんだよね。ああ、そうそう、俺は情報屋でメシを食べてるから多分そこらの人間よりは情報網とか広いんだ。もし君も何か俺に調べて欲しいことがあれば、特別に初回は安くしといてあげるよ」

にこにこと機嫌良く話す臨也の声が、妙に不快なものに思えた。出会った直後に聞いた時は心地のいい声だと思ったのに、今は聞きたくないと思う。ねっとりと鼓膜に貼りつくような感覚が不快だ。
どうやら知らないうちに睨みつけていたようで、臨也は肩をすくめながら「そんな怖い顔しないでよ、情報屋って言っても何も汚い仕事しかしてない訳じゃないんだから」とおどけた口調で言う。それもまた不快。

「そういうの必要ないです。用がないならこれで失礼します」
「まあ待ちなよ。俺の話はまだ終わってないんだから」

横を通り過ぎようとした時に肩を掴まれる。振り払いたいのに両手が塞がっているから無理だ。細身に見えるけれど存外強い力で振りほどける気もしない。顔をあげて臨也を今度こそはっきりと睨みつける。すると臨也は楽しそうに眼を細めて笑った。

「ダラーズを調べてたら本当に色々面白かったよ。くだらないガキのオモチャみたいなものだと思ってたから。実際ガキのオモチャだったんだけどね。ジョーク品としても粗悪だし中途半端なんだけど、中途半端なままでどこまで巨大化するのかと思ったら、ちょっと面白いよね。端の方から崩壊するのか、それとも中心からか……どっちにしろ崩れ落ちる時はきっとタダじゃすまない。想像しただけでワクワクするよ」
「……それがどうして僕に会いに来る理由になるんですか。僕はさっきダラーズの名前は聞いたことがある程度だって言ったのに、そんな話をされても困ります」
「まあまあ。だから人の話は最後まで聞くものだって言ってるだろ? 帝人君」

ああ、ごめん『間違えた』。
臨也がこれ以上ない位申し訳なさそうな笑みを作る。申し訳ないと思っていないのも作り笑顔なのも丸わかりだ。
肩に置かれた手がひどく重い。手にぶら下げているエコバッグの重さなんて目じゃないほどに。
嫌な予感がする。日頃、正臣から「お前って本当鈍いよな。身の危険も察知できないんじゃないかと心配だよ俺は」と冗談半分に嘆かれているけれど、身の危険位はわかる、と今なら言える。
だって今、これ以上ない位に身の危険を覚えているから。

「来良学園って俺が卒業した学校なんだよね。まあ名前は変わってるけど。でも私立校としてかかる費用はそんな変わってないからわかるよ。学費とか大変だろうね。君の両親にしてみれば地元の公立校に通ってもらう方がお金もかからないから楽だもんねえ?」

ぞっとする。
どうしてこの人はそんなことを知っている?
学校を特定されたのは仕方がない。何しろ帝人は私服登校が許されている学校とはいえ、律義に制服で登校しているから当然学校帰りの今も制服姿だ。1人暮らしをしているというのも、目の前のぼろアパートを見れば家族で住んでいるとは思えないだろう。
しかし、何故1人暮らしをしているのを知っていて、アパートを特定できたのか。確かに正臣は1人暮らしをしている理由も、住んでいるアパートの住所も知っている。帝人が彼に伝えたのは事実だ。しかし正臣がそんなプライベートな情報を軽々しく他人に言う性格をしていないのは帝人が一番よく知っている。
まさか無理やり正臣から聞きだしたのか。そんな疑念がわいたけれど、それはすぐに臨也が打ち消した。

「さっきも言っただろ? 俺は情報屋だ、って。多少のことは調べればすぐにわかるよ。特に君みたいな善良な一般市民の情報はかなり簡単に手に入るんだよね」
「悪趣味すぎませんか」
「いい趣味だと思わないかい? 知らないことがすぐにわかるんだから」
「プライベート情報を手に入れるということがいい趣味と言うなんて知りませんでした」
「ははは! 君、見た目に反して結構酷いことをさらっと言うね? そういう態度は怖いオニーサンの前でしない方がいいよ。それこそ地元の両親が心配して、1人暮らしの条件を撤回してでも君を地元に引き戻しちゃうから」

すぅ、と血の気が引いた。
この男は、一体、どこまで知っているんだろう。全部知っているとでも言うのか。そんな、まさか、いや、でも、ああ、どうしよう。
ばくばくと心臓が早鐘を打つ。
けれど頭だけは冷静に回り続ける。
そしてはじき出した結論。

「………何か、僕にしてもらいたいことがあるんですか」
「頭の回転のいい子は好きだよ」

にぃ、と笑う臨也が心底怖いと思った。底の見えない笑顔。完璧な作り笑顔。夕暮れに照らされ、影の濃い部分が作りだしたかのような黒い笑顔。

「別に今は何をしてもらおうってことはないんだよね。ただ、君と知り合いになりたかっただけだよ。正臣君を介してってのが自然かと思ったんだけど……彼を間にいれたら余計にややこしくなりそうだったからここに来たって訳」
「じゃあ早く帰って下さい」
「うん、そうするよ。ああ、でもこれあげる」

そう言って臨也はエコバッグの中にメモを1枚落とし入れる。ちらりと見ればメールアドレス、それと携帯番号が書かれていた。
メルアドと携帯は臨也のものだろう。登録するのも癪だが、どうせ住所を特定されてる時点で帝人の携帯番号もアドレスも知られているだろうから勝手にメールも送られてくるだろうし、電話もかかってくるに違いない。
ならば臨也からの電話やメールなのだとすぐにわかるよう、登録しておけば心の準備もできるだろう。

「メルアドと番号を登録してよ。とりあえず今はそれをしてくれれば、君のヒミツは黙ってておいてあげる。それにしてもバレないもんだね? 女の子なのに男の格好しててもさ」
「軽々しくそういう事を言わないでください。どこで誰が聞いてるかわからないんですから」
「あははは! ごめんごめん。そうだね、バレたら地元に強制送還だもんね」
「わかってるなら黙ってくれませんか」
「はいはい、わかってるよ。君が大金を持ってるんであれば、それを引き換えに君のヒミツっていう情報を俺から買い取らせてあげるんだけど」

学費以外の生活費を自分で捻出してる君には、両親から払ってもらってる学費より高い金額を支払えってのは無理だもんね?
笑みを含んだ臨也の声がひどく癪に障った。
ふいと視線を逸らしても笑っている気配がすぐ近くでしているから無意味。それでもせずにはおれなかった。

「じゃあもう暗くなるし早く部屋に入った方がいいよ。いくら見た目が男の子でも服を脱がされちゃ意味がないから。またね帝人君。……ああ、また間違った。ねえ、その格好ちょっと馴染みすぎじゃないの?」


帝人、チャン?


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バレて地元に帰る位なら、何だって言う事を聞いてやろうじゃないか!
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