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こんにちは、そしてさようなら

※若干の流血表現及び原作小説3巻以降のネタバレを含みます。



折原臨也は、悦んでいた。
ぞくぞくとするこの感覚を最後に味わったのはいつだろう、ああそうだ、高校の時、化け物じみた力を持つ同級生を見た時だ。
ただそのゾクゾク感はすぐに消えてイライラだけが募ったのだけれど。
でも今、たった今感じているのは間違いなく純度100%の悦びだ。


目の前で化け物と化した竜ヶ峰帝人が与えてくれた限りなく心地良い悦びだ。



標識とかベンチも大概武器として非常識だが、彼の持つ「武器」もかなり非常識だ。
きっと日常使いであろうボールペン、たった1本。それが彼の武器。
ひどく冷めた目でこちらを見ている。ああ、ゾクゾクする。
数秒前まで掲げていたボールペンは、今は臨也の太ももに刺さっている。
倒れるふりをして、彼が刺したのだ。
それはもう、思い切りよく刺してくれた。ゾクゾクするのに合わせてズキズキ痛む。
多分引っこ抜けば結構な血が流れるんじゃないだろうか。結構イイ所を刺された。近くには太い血管が走っているし、ここは人気のない路地裏。臨也の持っている携帯は、倒れるふりをした際にポケットから抜き取ったのだろう帝人の手から滑り落ち、今は帝人の足元で踏みつぶされていた。
ああ、ゾクゾクする。


「あなどってた、っていうのも何か違うなぁ……見くびってた、っていうのも違う気がするし」
「でもあなたにとって僕はただの駒だったんでしょう?」



正臣と同じ、ただの駒。
園原さんと同じ、使い勝手のいい駒。





「否定はしないよ。でも帝人君は僕が思ってた以上にいい駒だったみたいだ。うん、予想外だった。この俺も気付かなかったよ、君のその非日常への尋常じゃない憧れはさ。もうそれ普通じゃないよ。シズちゃんの怪力と同じ位、化け物じみたものだ」
「ええ、そうですね。そうかもしれません」
「そして君はその化け物に呑まれた」
「そうですね」
「そして、気付いた」
「ええ」
「君の大事な大事な幼馴染が破滅の道を歩いた原因に、辿りついた訳だ」
「ええ、そうです。他にも色々……そう、色々、僕は知りました。あなたが、どれほど最低か」
「誉め言葉だね」
「そうでしょうね」

ああ、ぞくぞくする。
太ももに突き刺さったボールペンを彼が掴む。ぐり、と更に押し込まれる。鋭い痛み。酷い痛み。でもそれを補って余りある悦び。つい笑ってしまえば「痛いのがいいんですか」と無表情に問われ、また抉られた。

「マゾの気はないよ。どっちかっていうとサドかな」
「加虐願望のある人は被虐願望があるからこそだって言いますから、マゾでもいいんじゃないですか」
「なるほど、一理あるねえ」
「でしょう?」

またえぐられる。本気でボールペンを抜かれた時が危ないかもしれない。
背筋に冷たい汗が流れる。いくら悦びを感じてるせいで痛みが遠いとはいえ、流れている血の量はごまかせない。少しずつぐらぐらと意識が揺らぎだした。
何てもったいないんだ! 折角化け物と出会えたのに!
予想外の成長を遂げた、池袋に棲まう魔物から愛されている化け物に!

「僕個人は、あなたのこと、好きでしたよ。胡散臭かったり何を考えてるかわからなかったりして怖かったですけど、でもあなたのこと、好きでした」
「俺も帝人君が好きだよ」
「正直、今でもあなたが好きです」
「うん、俺も」
「でもどうしても許せないことがあるんです」




あなたは、僕の大事な友達を傷つけた。
一生消えない心の傷を背負わせた。





「それだけは、絶対に、許せない」
「そう。俺のことを許さない君も俺は好きだよ」

一気にボールペンが引き抜かれた。ああ、血が流れていく。黒い服が赤くなる。でも黒いからわからない。空気に触れて、すぐに濁った赤になる。汚い色だ。
でも彼に飛び散った血は綺麗だ。白いカッターシャツに飛び散った色は綺麗だ。あれは、俺がつけた、俺の血だ!
ああ、ぞくぞくする。

「運が良かったら静雄さんが見つけるかもしれません。もしかしたらセルティさんかも。まあ静雄さんに見つかっても助けてもらえる保証はありませんが」
「そうだね。それはあの運び屋にも言えることではあるんだけどさ」
「でもセルティさんならきっと、今のあなたの姿を見たら助けてくれますよ」
「だといいけど。池袋に愛されてれば助かるのかな? ははは! 俺が池袋の街に愛されてるといいんだけどねえ……街の擬人化は好きじゃないからな。俺はあくまで人を愛してる。もちろん、君という人間から進化した化け物も」
「そうですか。僕も好きですよ、臨也さん。愛してます」
「俺もだよ、帝人君」

血に濡れたボールペンをハンカチでぬぐい、ペンケースに戻すと彼はにこりと笑って踵を返す。笑った顔のなんて無垢なこと!
立ったままの姿勢を保てなくて、壁に身体を預けてずるずると崩れ落ちる。そうしながらも彼の足音を耳で追う。
かつん、こつん。それに合わせて血が流れる。どくん、どくん。
しんどくなって目を閉じれば、彼の冷えた眼差しがすぐに浮かんだ。


ああ、ぞくぞくするね!!




君の手にかかるなら本望。

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