大阪 スタジオ 防音室 Real One そんな目で見ないで 忍者ブログ

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イザミカSSブログ。

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そんな目で見ないで




路地裏で帝人は思う。
どうしてこんな目に遭うんだろう、と。
そんなことを考えられるだけの余裕なんてないのに、何故か頭のどこかが冷静にそんなことを考えている。
嫌だと抗っても両腕は縛られているし、足だって抑えつけられている。汚い路地裏の道路に仰向けにさせられ、同じ男としても醜くて汚くて下品な顔が帝人を上から覗きこんでゲラゲラ笑っているのを、頭の中の冷静な部分が見ている。
やめてと叫ぶ自分。暴れる自分。泣きそうになってる自分。
それらをやっぱり冷静な自分が見ている。そして、思う。
どうしてこんな目に遭うんだろう、と。



嫌だと言った。
でも言えば言うほど悦ばれた。
数時間前にも両腕を拘束され、仰向けに転がされ、本来は何かを入れる場所ではない所にとんでもないものを突っ込まれていた。
上から覗きこむ顔は楽しそうに笑っていたけど、今みたいに醜くて汚い下品な顔ではなかった。
腹が立つほど綺麗な顔だった。綺麗な顔で楽しそうに笑っていた。たまに聞こえる少しだけ掠れた感じのくぐもった声が、その人が気持ちいいと思っているのを伝えた。知りたくもなかった。
散々好きにされた。喘がされた。もう出ないと泣いて叫んでも出させられた。
ひりひりと痛むのは喉だけじゃない気がした。擦り切れたのは無理やり突っ込まれた部分だけじゃなくて、心までもが擦り切れた気がした。それでもちゃんと頭の中の冷静な部分は生きているから、ああまだ切れてはいないんだろうなと思った。
そうしてやっと終わったと思えば、今度は「ちょっと池袋を歩いて来てよ」と言われた。
疲れているから嫌だと言った。
でも言えば言うほど悦ばれた。
無理やり服を着させられ、部屋から追い出された。3時間は帰るなと言われた。
ドアを閉められ、鍵のかかる音、チェーンの降りる音をどこかぼんやりしながら聞いた。閉めだされたというよりも、取り残された感じがした。世界の全てから取り残されて、ぽつんとどこだかわからない場所に立っている気分だった。

気だるさにぼんやりとしたまま街を歩く。たまに人にぶつかる。舌打ちをされる。したいのはこっちだった。
何度か人にぶつかり、舌打ちを聞いていたら段々嫌になってきて、無意識に人の少ない道を選んで歩いていた。そうしたら、どこかのチームの人間達に捕まった。
殴られるのかと思った。
でも違った。
ぎらぎらとした目で見てきた。
変態だ。男に男が欲情するなんて。
走って逃げようとしたのに、倦怠感と痛みに上手く身体は動かなくて、あっさりと捕まって、そしてこのザマだ。

嫌だと叫ぶ声がかすれる。それが男達にはたまらないらしい。やっぱり変態だ。
服を引きちぎられる。少し前につけられた跡に気付いて男達が笑う。変態だなと笑う。変態に変態と言われる筋合いはないと思った。少なくとも男を見て欲情して無理やり押し倒すような変態と同じではない。そこまで堕ちたつもりもないし、堕ちる予定もない。
怖かった。怖くて、泣きたかった。多分泣いてた。
なのにどうしてか頭の中の冷静な部分はそんな自分もちゃんと見ていた。
泣きわめく自分を。恐怖におびえる自分を。
自分はどこか壊れたんだなと、その時に思った。
擦り切れていないと思っていた心は、とっくに切れていたんだと、その時に気付いた。そう思ったら全てがどうでもよくなった。
どうでもいい。どうせ壊すなら徹底的に壊せばいい。そう思った、のに。





「すけっととーじょー。……なーんてね」

ひどく綺麗な声。汚い路地裏に不似合いな、綺麗な通る声。
のしかかっていた男達がうろたえる。うろたえて、そして怒鳴りつける。邪魔すんな何なんだお前ヒーロー気取りかと醜い顔そのままの醜い怒鳴り声だ。
けれど綺麗な声の主が誰であるかを知ってる奴がいたらしい。これからって所に水を差されて怒る仲間を宥め、そそくさとどこかに行った。

「あーあ。どうせなら両手の拘束くらい解いてけばいいのにね」

くすくす笑いながら近づいてきて、持っているナイフで紐を切る。解放されたものの、ずっと縛られて同じポーズだった腕は上手く動かなかった。動かない自分に焦れた訳でもないだろうけど、腕を引っ張られて強制的に立たせられる。とりあえず足に力を入れてみたが上手く立てなくて、仕方なく体重を預けた。
助けられた、のだと思う。
でも助かった気は全くしなかった。そもそも。

「こうなるってわかってたんでしょう?」
「んー? こうなるといいとは思ったけどこうも上手くいくとは思ってなかったよ」

上機嫌の声。上機嫌の笑顔。

「1回試してみたかったんだよね。ヤった後ってすごいフェロモン垂れ流しなんだって。それに帝人君を思いっきり喘がせてイかせた後ってすごいヤラシイの知ってたし。だから知りたくなった。そういう帝人君を街中にほっぽりだしたらどうなるか、ってのをさ。いやぁ期待以上だったよ!」

すぐにあんな変態野郎をひっかけるなんて、才能あるね! なんて。
そんな才能欲しいなんて思わない。むしろいらない。そう思ったのは顔に出ていたと思う。心底嫌そうに歪んでいるであろう顔を、それでもその人はうっとりとした眼差しで見つめてくる。
ぺろりと舌舐めずりをした後、唇を舐めてきた。舐められて気付く。かさかさに干からびていたことに。
緊張。恐怖。まるで干からびた心のような、かさかさした唇が舐められたことによって少しだけしっとりする。けれど心はどこか干からびたまま。当然だ。唇と違って心は舐められない。

「最高だったよ。あの男達に押し倒されて泣き叫ぶ君の顔はさ。ゾクゾクしてイきそうになっちゃった。ほら」

押し付けられた腰と、熱。
絶倫。そんな単語が頭を埋め尽くす。さっきの男達と引けを取らぬ変態さじゃないか。

「……あれえ? 帝人君も勃ってるよ? もしかして感じてたの? あんなのにヤられそうになって、感じてた? もしかして助けない方が良かったのかな?」

そんな訳ない。と言えばよかった。でも言えなかった。
言えば良かったのは、あの男達に押し倒されてた時は本当に萎えてたから。
言えなかったのは、今、勃っているから。
わかってて聞いてるから、本当に嫌な男だ。
にやにやと笑って、ねっとりと頬を舐める。ぞわりとした。

「ほーんと……帝人君、甘いよね」

どういう意味だろう。
舐めたら甘かったのか。それとは違う意味の甘さを指摘したのか。
よくわからないが馬鹿にされたのはわかった。
睨みつける。でも恍惚とした顔で笑われた。悦んでいる。変態め。

「壊れたら楽になるって思った? 壊されてしまえばいいって思った? あははははは!!」

ゆるさないよ。
そんな声が聞こえた気がした。
壊れてるのはどっちだ。
壊れてるのは、馬鹿みたいに笑っているそっちじゃないのか。
そう思って睨みつける。と、ぴたりと笑いは止んだ。
ひどく真剣な顔で、こちらを見る。
そしてたった一言、言い放つ。

「馬鹿だよねぇ、君」








わかってる。言われなくても、わかってる。
こんな目に遭っても、あなたの傍にいる事を選んでいる自分は本当に馬鹿だ、って。
でも仕方ないじゃないか。
あなたが、そんな顔をするから。
そんな顔、するから。





そんな風に、目の奥の奥で、縋るように僕を見るから。
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