イザミカSSブログ。
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「君は本当に面白い子だねぇ」
「はぁ。ありがとうございます?」
「うん、そういう所も嫌いじゃない」
ひどく上機嫌な……そう、本当に上機嫌らしい笑顔を浮かべて帝人の隣を歩く。
幼馴染も、片思いの彼女も、今はいない。
彼らと一緒にいる事は多いけれど、常に一緒にいる訳じゃない。だから帝人が学校帰りに1人で街中を歩くのもまた、珍しいことではなかった。
けれど、帝人が1人で歩いていると必ず彼が現れた。
ある時は校門付近にいた。
ある時は交差点を渡っている時に向かいから歩いてきた。
ある時は信号待ちの時に後ろからやってきた。
いつ、どこから来るかはわからない。
何故なら彼はいつも「偶然だね帝人君」と言う。
さも「たまたま出会った」と言うように、手を軽くあげ、にこにこと笑って近づいてくる。
それを見る度、帝人は思う。
偶然と必然の違いは何なのだろう、と。
この男は、どこまで物事を、人を、世界を、情報によって操ろうとしているのだろうか、と。
何より帝人は思う。
この男にとっての自分は「ダラーズの創始者」以外のメリットはないはずなのに、こうも構ってくる理由は何なのだろうか、と。
「帝人君はさぁ」
「はい?」
「面白いよね」
「それ、さっきも聞きました」
「うん、言った」
でも面白いねぇ、と。何がそこまで楽しいのだろうと言うような声音で臨也は言う。
ちらりと視線を横に向ければ、いつからこちらを見ていたのか、すぐに臨也と目があった。
射抜くような目は愉悦の色が濃い。
何がそんな楽しいのだろう。わからなくてちょっと怖い。
「顔に出てるよ。何でこいつは自分にまとわりつくんだろうウザイな、って思ってるんでしょ」
「………否定はしませんけど、ウザいとまではまだ思ってません。とりあえずは」
「いつか思う予定はあるんだ?」
「理由もなく常に待ち伏せするかのように現れ続ければ、そりゃウザいって思いますよ」
「ふぅん、そう? でも待ち伏せてはいないからウザいって思う必要ないよね」
にやりと口角を持ち上げて笑うそれが、妙に様になっている。
「待ち伏せなんてまだるっこしい事は嫌いなんだ、俺。俺が好きなのは『必然』なんだよ。確実な何かが欲しい。確かなものが手に入るとわかって初めて、俺はソレに興味がわく、って言っても過言じゃないよ」
「はぁ……」
「つまり、何が言いたいかっていうと、ね」
いきなり腕を引かれる。
何事かと思うよりも早く路地裏に引き込まれ、足元にあったゴミ箱を蹴倒し、それでも尚臨也は帝人の腕を引いてどんどん路地裏の奥へと入り込んでいく。
そして人の気配が完全に消えた場所に連れて来られたと思ったら、ちょうど行き止まりになっている壁に向かって顔面を打ちつけられそうになった。
慌てて両手で壁に手を突き、激突だけは回避する。
けれど体重がかかった2本の腕はギシリと悲鳴をあげた。
痛い、と言うよりも先に背後から黒い影がのしかかってくる。
「俺は帝人君が好き、って事だよ」
路地裏へと引き込む強引さも、壁に顔面を叩きつけようとした乱暴さも、まるでなかった事にするかのような甘い甘い囁きが耳に落とされた。
言われた言葉の内容を反芻している間に、のしかかっていた影はすぅ、と引いていく。
慌てて振り返ると上機嫌な笑みを浮かべた男は「じゃあまたね」と言い置き、さっさと路地裏から大通に向かって歩いて行ってしまった。
残された帝人はただただぽかん、と口を半開きにするしかない。
あの人は何を言ってるんだ。
あの人は何を言ったんだ。
何を、どう繋げたらそういう話になるんだ。
「……訳がわからない…」
ただ1つわかっているのは、両腕が未だにジンジンと痛む事、ただそれだけ。
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