イザミカSSブログ。
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「あなたは狂ってる」
帝人は、3日に一度はこう呟く。感情の無い声でそう呟く。ぽつん、落ちる言葉に力は無いのに、臨也の心に浸みわたる。ぽたん、ぽたん。溜まって、満ちて、とろとろと流れる。それがたまらないと臨也は思う。聞くたびに、その薄い唇を吊り上げ、笑ってしまう。だってそうだろう、その言葉は愛の囁きと同義だ。
ベッドから起き上がれないでいる小さな背中は、臨也が噛みついた痕が痛々しい。その背中にかかる毛布をはぎ取って、わざわざ傷のところに舌を這わせてやった。ぴくり、と肩甲骨が動くのを見て、臨也は笑いをかみ殺した。少し歯を立ててやれば、なんとか振り向いた帝人に睨まれた。まだそんな目が出来る彼に、臨也の腰はぞくぞくと震えそうになった。
「そうかなぁ?」
笑いを含ませて答えてやれば、帝人の大きな瞳が一際強く、臨也をうつした。青を含んだ大きな瞳は、傷をたっぷりと含んでいてとても艶っぽい。臨也に何度も傷つけられた瞳は、臨也を歪んでうつす。
「はは、エロい顔」
そう言って鼻を噛もうとしたら、器用に顔を背けて避けられた。あーあ、なんて無駄なことを。
ふ、と鼻で笑い、帝人の首の筋が痛むのも構わず、その顎を掴んで無理にこちらを向かせてやった。その鼻を、噛む。ぐ、と可愛くない呻き声がした。そんな声にも欲情した。瞼を噛み、頬を噛み、最後に唇に齧りついた。行為の最中何度も噛み締めたのだろう、血の味がした。それに、臨也は眉を寄せた。唇は噛むなと言ってあったというのに。熱い舌で舐めてやれば、ひぐ、と帝人の喉が震えた。毎回ひどくしているせいか、ただこれだけの接触ですら彼の体は優しいものと受け取り、その優しさを貪るように感じてしまうらしい。若い体というのは、本当に柔軟に出来ている。くく、と喉で笑い、臨也は帝人に深く深く口づけた。
ひちゃり、という水音が最低限のものしか無い部屋に静かに響く。ベッドと、小さな机と、風呂とトイレ、冷蔵庫に最低限の食料。それだけしかこの部屋にはなかった。遮るものが無いから、音が良く響くのだろう。正直ベッドだけあればいいと思ったが、流石に不便だろうと思って最低限暮らしていけるだけのモノは用意してあるのだ。
「ふぅ、う……ぅあッ」
口の中も切れていたらしい。噛むなと、何度も言ったのに、守らない。全く、物覚えが悪い。傷をえぐるように舌を突っ込み、唾液を塗り込む。唾液を塗り込んだ方が治りも早いだろう。しかしそれも痛いのだろう。帝人の眉がより、きつくつむった目の端には涙が滲んだ。けれど、その指は拒絶もせずに臨也の腕をぎちりと掴んで離さない。
「馬鹿だねぇ、帝人くん。血だらけだ」
べろり。血の味がする舌で唇を下品に舐めてやると、涙目のままぎりぎりと歯を食いしばる姿。ああ、ああ、ほんと馬鹿。大馬鹿だ。その表情、俺がどれだけ好きかわかってるの?
舌舐めずりをして、薄い肩を掴んでひっくり返した。ひ、と上がった声にも躊躇せず、再び身体を重ね合った。帝人の薄い体には、臨也の体すら重いらしい。身体を潰せば、ふぐ、と苦しそうな声。
嫌がる顔がたまらない。痛がる顔。睨みつける顔、なんて官能的なのだろう。
何度も何度も臨也に汚されて、傷つけられて、壊されて。
その固くて柔らかな体を開いて。
いやだいやだと本気で泣き叫ぶ声になお欲情して、何度も何度も喉を枯れさせた。
臨也を憎んで、憎んで、憎んで。恐れて、怖がって。嫌って。
帝人は、それでも臨也を愛する心を壊せずにいるのだ。
なんて馬鹿なのだろう。なんて可哀想なのだろう。
そしてなんて愛しいのだろう。
「ねぇ、もっかいしようか」
「……っ、ひ、」
「若いんだから、大丈夫だよ」
「いやだ……! この、気違い!」
「ははは、君に言われたくないよ」
細い脚を持ち上げて、その踝をぎぎ、と噛んだ。骨の感触。皮膚を少し切ったらしい、小さく悲鳴が上がった。足の裏ですら、臨也の噛み痕がついていることもある。どこもかしこも、傷つけばいい。どこもかしこも、臨也の歯型に歪めばいい。
無理に足を曲げさせられて、また帝人が呻いた。特別柔らかい体では無いから、この体勢がつらいのだろう。それがどうした、と臨也は足を胸のあたりまで持ち上げて、その身体を堪能した。
どこもかしこも、歪め。歪め、歪んでしまえ。内も外も全て、そう全て!
誰が見ても臨也のものと解るように、壊れてしまえ。歪んでしまえ。
そのまま心すら歪めてしまえばいい。一生臨也のこと考えて、傷つけられて、嫌って。
そして愛して。
「……死ねッ」
「やーだね、はっ……」
「死ね」っていう声が好きだ。喘ぎ声に混ぜて、泣き声に混ぜて、言われる言葉はどうにも臨也の脳髄をぞくぞくとさせる。帝人の言葉は、どれも臨也に浸透し、心に溜まって行く。死ね、気違い、狂ってる、どうして、いやだ。もっと言ってくれ。もっと考えてくれ。心を全て臨也で染めてしまえ。他のモノが入り込めないカタチになってしまうまで、臨也のことばかり考えていればいい。
「じゃ、あ、……ふぁ、……もうッ殺してぇ」
ああ、でもこれは駄目。却下。臨也は額に汗を浮かべて、眉をしかめた。
それは駄目。逃げるのは駄目。
歪むのが怖くて、壊してしまうのは間違っているだろう? いいじゃないか、歪んだって。歪んだ君の心は臨也を受け止める器となる。壊してしまったら、誰が受け止めるんだ。そんなことを許すとでも思っているのか。
殊更優しく微笑んでやれば、帝人の表情が恐怖にひきつった。
けれど見逃すものか、その見開いた目には、臨也の言葉を期待する色。
「……本当に馬鹿だねぇ、帝人くんは」
「やぁあ! ひ、うぁ…!」
「殺したりなんかしてあげない」
これで満足かい?
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